組成と法的構成

訴訟ファンドの組成

※以下内容については、米国訴訟ファンドマネージャーArrowhead Capital LLC.の了承を得て掲載している。

組成の端緒

米国の訴訟ファンドマネージャーであるArrowhead Capitalによれば、訴訟ファンドの案件が持ち込まれるケースで最も多いのが、弁護士(弁護士事務所)からの紹介である。訴訟ファンドビジネス自体が、訴訟実務経験を持つ弁護士たちにより行われており、当然、彼らは弁護士業界に幅広いネットワークを持っている。こうした人的ネットワークを通じ訴訟ファンドを必要とする潜在的な案件が訴訟ファンドに紹介されるのである。第二に多いのが、ブローカー経由の案件紹介である。訴訟ファンドを必要としている当事者が、適切な訴訟ファンドの発掘と交渉のためブローカーを雇い、そこからビジネスが生まれている。通常ブローカーは様々な訴訟ファンドと関係を持っており、必要最低限の訴訟ファンドについての情報がブローカーから提供される。第三は、インターネットなどを通じて直接訴訟ファンドに持ち込まれるケースである。

 

訴訟ファンドによる事前審査

正式な契約交渉に入る前に審査すべき事項として、例えば、米国ニューヨークの訴訟ファンドマネージャーであるArrowhead Capitalは以下のことを挙げている。

  • まず、当該案件が訴訟ファンドの対象になりうる筋のよい案件(訴訟や仲裁で勝てる確率の高い)なのか?どのようなタイプ、どのような内容の法的紛争なのか、相手は誰か、どこの裁判管轄(訴訟ファンドが認められていないところでは当然無理だが、管轄地により訴訟結果に差も出る可能かある)になるのかなどが考慮される。
  • 勝訴できる案件として回収可能金見込み額と訴訟費用支払い見込み額の比はどのくらいか?推定される解決までの期間はどのくらいになるか?これにより訴訟ファンドの投資リターンが明らかになってくる。
  • もし勝訴したとして、あるいは、和解したとして相手側から回収が可能か?相手側の信用力と万一の場合の裁判管轄地での執行の確実性が検討される。
  • 案件においてどのような弁護士(弁護士事務所)が当事者を代理するのか?
    つまり、競馬になぞらえ、案件が馬にたとえられ、弁護士が騎手にたとえられ、馬と騎手が優秀なら勝てるチャンスが高いことになる。当該弁護士(弁護士事務所)と相手側の弁護士(弁護士事務所)の当該タイプの紛争での経験値、業界評価、担当判事の記録などが考慮される。
  • 担当弁護士(弁護士事務所)は、訴訟ファンドから一定度受け取るべき成功報酬についての考慮も必要となる。これは、弁護士(弁護士事務所)に対する経済的なインセンティヴになるからである。

 

訴訟費用資金提供パッケージの経済的検討

1) 訴訟ファンドからの資金提供される範囲はどこまでか、すなわち、直接訴訟費用、間接的な訴訟費用、弁護士報酬、さらには当事者に対する営業資金までも含まれるのかが決められなければならない。

2)弁護士(弁護士事務所)は、決定された予算を合理的なものとして受けるのかは大きな問題である。予算が過少であれば、追加で弁護士費用を支払わなければならなくなるし、一方、もし、当初に多額の支払いをコミットするのであれば、訴訟ファンドにとっても、原告当事者にとっても、弁護士事務所にとってもリターンが少なくなってしまう危険性が高まり訴訟ファンドとしての経済合理性を失うことになる。

3)訴訟ファンドからの資金提供の実行スケジュール(マイルストーンで順次に支払いが実行される)は事前に決められなければならない。もちろん、個別案件について訴訟ファンドが組成される場合には、案件にコミットされた資金金額が銀行エスクロー勘定に預けられ、すべての関係者が訴訟遂行するにつき安心することが大切である。

4)訴訟ファンドが得るべきリターンがどのくらいなのかの取り決めが必要である。複数の訴訟が対象となるポートフォリオファイナンスと個別案件の訴訟を対象とするファイナンスでは当然リスクが違うので後者のほうが、訴訟ファンドに高いリターンを約束する必要がある。もちろん、訴訟や仲裁の結果により、どのように回収金額が訴訟ファンドに支払われるのか、当然、通常は訴訟費用支払い分を優先するのであるが、当事者間での取り決めが必要となる。特に、和解条件を相手側と取り決める際のメカニズムなどは重要な交渉条件となるであろう(米国では、和解条件の決定に訴訟ファンドは当事者に指示することはできないが、英国では、少なくとも当事者に対する発言権があるのが通例で契約にもそのように記載される)。

Term SheetとEngagement Letter

案件の事前審査と経済的な条件設定が終われば、訴訟ファンド側から基本条件を記載したTerm Sheetが準備され、当事者間で交渉される。もちろん秘密保持契約が締結される。これは、当事者間で後に締結されるLitigation Funding Agreementの基本骨子(特に、資金提供における経済的な条件設定がキーになる)が書かれたものである。当事者間で、交渉を効率よくし、誤解を避け、且つ、想定外の事項が残らないようにするものである。必要であれば、取引を紹介したブローカーもこの交渉に参加することがある。これに加え、Engagement Letterが当事者間で取り交わされる。まず、第一に、訴訟ファンド側が、正式なデューデリジェンスを完了し実行決定するまでの間の独占権を訴訟ファンド側に与える。この間は、他の訴訟ファンドからの引き合いなどはできなくなる。

 

第二に、正式契約が締結されるまでに当該紛争案件が、当事者間で解決してしまう場合や当事者が訴訟ファンドを使わない場合に訴訟ファンド側を守る規定が含まれる。第三に、資金提供申し込み当事者に訴訟ファンドが、デューデリジェンスのために出費する費用を負担することを約束してもらう。これは、訴訟ファンド側が、デューデリジェンスに時間と費用をかけたにもかかわらず、自己の判断で取引をしない、いわゆるただ乗りを防ぐ目的である。しかし、逆に訴訟ファンド側が、デューデリジェンスの結果、自己の判断で資金提供を行わないという場合には、一般的には、当該支払われた金額は、相手側当事者に返却される。その意味で、デューデリジェンスにより当初の事前審査外の事実が発見されるリスクは、訴訟ファンド側が負っていることになる。

Litigation Funding Agreement

Engagement Letter  が調印され、Term Sheetで訴訟費用提供に関する基本的条件が決定し、デューデリジェンスが開始されたら、同時並行的に、Litigation Funding Agreementのドラフト提示と交渉が当事者間で始まる。ここで注意しなければならないのは、訴訟ファンドビジネスは成長過程であり、業界の標準約款があるわけではない。各ファンドがそれぞれ自分で考えた契約フォームを持っている。それぞれ異なった資金提供に対する考え方があり、ビジネスへの異なるアプローチがある。少なくとも米国では、契約フォームは、各ファンドのノウハウが詰まった高度な機密情報とされ、また、資金提供を受ける訴訟当事者にとりその内容は、訴訟にかかわる機密情報であるから、契約内容が情報開示されることはなく公での入手は難しい。これが、一般に開示されるローン契約との大きな違いである。しかし、米国ニューヨークのファンドマネージャーのArrowhead Capitalからの説明によれば、Litigation Funding Agreementの概要は、以下の通りとなる。

 

  • 契約当事者
    まず、訴訟ファンドから資金提供を受ける訴訟当事者である。通常、米国では”Claimant”と呼ばれる。非公開会社であれば、契約履行を担保するために会社の主要株主も契約当事者に加えられる。次に、当該訴訟の代理人たる弁護士事務所(弁護士)である。弁護士事務所に資金提供が直接行われ、あるいは、弁護士事務所に成功報酬ベースの支払いが組み込まれる場合には、Litigation Funding Agreement上の当該訴訟に関する現金支払いや回収金の分配について弁護士事務所(弁護士)が合意条件に従ってもらう必要があるからである。また、秘匿特権の保護を条件として弁護士事務所(弁護士)から当該訴訟に関する情報の提供を受けなければならない。最後に、資金提供者たる訴訟ファンドである。多くの場合には、当該訴訟毎に特別目的会社が設立される。米国ではデラウェア州を準拠法としたlimited liability companyが利用される。資金管理は独立した銀行口座から行われ、第三者からの責任追及を遮断することができる。もちろん複数訴訟を対象としてポートフォリオファイナンスがされる場合もありうる。
  • Representations, Warranties and Covenants
    Representations & WarrantiesではM&AやLoan Agreementで一般的に求められる内容と大きく異なることはない。しかし、これらの条項の交渉を通じて、訴訟ファンド側にとり当該対象訴訟に関する利害関係者の存在や対象請求権について内容を明らかにする重要な機会になる。ClaimantからのCovenantで最も重要なことは、訴訟が始まってからの訴訟ファンド側への重要情報の通知と開示と訴訟過程での重要な判断に際しての訴訟ファンド側との相談(同意ではない)である。もちろん弁護士・依頼人間の秘匿特権がこれらの情報提供を通じて失われないようにしなければならないが、それを理由として重要情報が開示されない危険を訴訟ファンド側として回避しなければならないのである。もうひとつCovenantで重要なものは、訴訟ファンドの同意を得ることなく弁護士事務所(弁護士)を解任、交替させることである。これらの事項は、法曹倫理の問題とも絡むため、非常に微妙な問題を含んでおり、また、各国の特殊事情もあるので注意が必要である。
    また、当該訴訟や仲裁で解決金が支払われる際に訴訟ファンドが管理する銀行口座への振り込みがなされることが訴訟ファンド側から要求される。特に、Litigation Funding Agreementの契約当事者となる弁護士事務所(弁護士)に対して依頼人の指示が違っていても契約条件通り訴訟ファンドのために管理し、分配することを直接訴訟ファンド側に約束させる。
  • 経済条件
    これは、Term Sheetでも最も重要で交渉の最重要課題となるところである。
    まず、訴訟資金の予算が取り決められるが、どのように実行されていくのかメカニズムが取り決められる。通常は、正式契約が発行する時点で弁護士事務所のエスクロー勘定に資金が訴訟ファンドから振り込まれ、毎月予算通りに弁護士事務所(弁護士)などに支払われる。訴訟ファンドは、弁護士事務所(弁護士)からの請求書をモニターし疑義があれば弁護士事務所(弁護士)に問い合わせる。
    最も重要なのが訴訟ファンド、訴訟当事者、弁護士事務所(弁護士)に対する経済的リターンである。これには、定額ベースと変動ベース、及び、その併合がありうる。
    定額ベースでは、通常、訴訟期間が想定期間より延びると金額が増加する計算式になることが多い。解決までの時間がかかれば、訴訟ファンド側に資金負担が増えるとともにリスクも増加するからである。訴訟ファンドとしては、合理的な条件で当該訴訟や仲裁が和解で解決することが理想であることは容易に想像できる。
    変動ベースでは、当該訴訟や仲裁で得られる賠償金や和解金の一定割合を訴訟ファンドが得るが、定額プラス残余についでの一定割合の支払いを取り決めることもある。案件は様々であり、それぞれリスクとリターンは見合うべきで、どのような経済的条件や支払いメカニズムが、一番妥当なのかは、ベストプラクティスがまだ存在しない現在、当事者間での交渉になる。一般的には、ポートフォリオの中に組み込まれれば、相対的にリスクは低くなると想定され経済的リターンの割合は低くなる。
    現実の賠償金や和解金の分配支払いについては、契約上それぞれの当事者につき分配順位が定められる。もちろん各当事者にインセンティヴが与えられ、想定期間内に合理的条件で取引が完了するようなメカニズムが取り決められることになる。
  • Remedies
    訴訟ファンドの最も特徴的な点は、ノンリコース条件での資金供与ということである。つまり、訴訟ファンドは回収が見込めない、あるいは、下回る場合にはすべてのリスクを負担している。従い、もし、訴訟当事者側において、Representation & Warranties, Covenantsなどの履行において重大な契約不履行があった場合、例えば、当該請求権に第三者が担保権を有していたのにそのことの開示を怠ったなど、当然、全責任が追及されることになる。更に、訴訟ファンドが資金を提供する前提条件が、法令の変更などで大きく変わってしまう場合には、訴訟ファンド側が途中で資金提供が取りやめることもある。
  • 紛争解決
    多くのLitigation Funding Agreementでは、当事者間の紛争解決手段として仲裁が合意される。訴訟ファンドの取引内容が事実上ファイナンスであり、その性質から当事者ができるだけ合理的な判断をして無用な紛争事態を避けることが期待されている。従い、当該仲裁条項では、勝訴側の費用も含めて仲裁費用は敗訴者負担が合意されることが多く、これも仲裁にたよらず、できるだけ当事者間で問題解決を進めるようにするためでもある。ところで、当該訴訟や仲裁において、必ずしもすべて明確な金額に表せない結果、例えば、損害賠償支払いの一部または代替として技術ライセンスを供与する場合もあり得る。当然、解決金額の決定と分配において当事者間での意見の違いもありうる。このような場合、仲裁手続きにおいて米国の大リーグで利用されている”baseball rule“がとられる。すなわち、当該訴訟や仲裁での解決の経済的価値につき金額が合意できない場合には、当事者がそれぞれ自分の考える金額を提示し、一人の仲裁人が、そのどちらかを決めるというものである。仲裁人は、金額につき妥協案を提示することは許されず当事者から提示されたどちらか一方を選ばなければならない。当事者が仲裁手続きで時間を浪費させることを防ぎ、できるだけ早期に合理的な解決をする方法のひとつとも言われている。更には、”baseball rule”の仲裁でのリスクを考え、仲裁に訴えることなく当事者間で円満に解決する動機にもなりうるのである。