日系企業による活用

日系企業における訴訟ファンド活用

訴訟ファンド活用のメリット

日系企業にとり、国内と比べ海外で訴訟や仲裁を起こすことは、非常にハードルが高い。グローバルに企業活動をする大企業でも海外の訴訟制度や慣行に精通し、戦略的に訴訟や仲裁を利用するのは難しいことである。また、弁護士(弁護士事務所)起用につき経験が豊富だからといって、訴訟管理は国内のそれと比べ格段に難しい。従い、前述したような民事訴訟や仲裁で企業が直面する障害の程度は、海外の現地企業と比べ格段に大きくなる。日系企業が原告となる訴訟や仲裁は、こうした数々の障害のため被告となる訴訟や仲裁より圧倒的に数が少ない。

日系企業にとり訴訟ファンドの活用メリットは、現地企業にとっての活用メリットより大きなものになるかもしれない。例えば、訴訟ファンドを通じて提起を検討している訴訟や仲裁について事前に第三者評価の取得が得られる。日系企業の法務部門や経営陣にとり、現地の訴訟制度に精通した訴訟ファンドからの肯定的な第三者評価は、現地弁護士事務所からの意見を補強し、あるいは、再検討する意味をもつであろう。

また、訴訟ファンドを通じて代理人弁護士(弁護士事務所)の能力の査定も可能となるし、訴訟ファンドマネージャーから有能な専門弁護士の紹介を受けることも可能となる。おそらく最も魅力的なことは、訴訟ファンドからの資金供与は原則的にノンリコースであることから、敗訴リスク回避ができ、不必要に消極的になることなく積極的な訴訟戦略を立てることが可能となる。更に、訴訟ファンドからの予算管理により、間接的に現地弁護士(弁護士事務所)に対する訴訟管理も可能となる。

 

訴訟ファンド活用の注意点

訴訟ファンドには様々なものがあり、それぞれの活動する裁判管轄地があり、訴訟や仲裁でも得意な専門分野があり、ビジネスのスタイルも違っている。一方、日系企業の抱える法的問題や訴訟観も様々である。従い、すべての訴訟ファンドが案件を受けるに適切とは限らない。その中から自社に適切で信頼できるファンドの選択をすることが大切である。
訴訟ファンドの資金提供の業界共通の契約フォームは存在していないため、訴訟ファンドとは彼らの持つフォームをベースとして個別の相対での契約交渉になる。デューデリジェンスにおいて訴訟ファンドにどの程度、また、どのように秘匿特権を維持しながら応じていくのか、代理人弁護士との密接な協力関係が重要である。経済的条件の設定も複雑なものになる可能性があり、訴訟ファンドとの契約交渉には専門知識のある弁護士を起用する必要がある。

いずれにせよ、訴訟ファンドからの資金供与がついてもあくまで訴訟当事者は自分自身で訴訟遂行は自ら行う。訴訟過程や和解交渉などで訴訟ファンドや選任した弁護士との間で起こる、利益相反、秘密保持、秘匿権保護など法曹倫理問題に注意を払う必要もある。訴訟ファンドがまだ成長過程にあるビジネスであり、法的な問題が出尽くしておらず、新たな法的な問題に遭遇することも覚悟しなければならないであろう。

 

訴訟ファンド利用の当事者から海外で訴えられる可能性の増加

訴訟ファンドが米国など海外で広がるということは、日系企業が訴訟ファンドを使う当事者から海外で訴えられる可能性も増加するということである。ただでさえ米国では日系企業が訴訟で被告として訴えられるケースが多いのに以前にも増して訴えられるケースが増えることが危惧される。もし、訴訟ファンドを相手が利用しているのであれば、資金が潤沢であり、こういう相手側に対しては訴訟対応も変わらざるを得なくなる。

被告当事者が、裁判手続きで相手が訴訟ファンドを利用していると疑われる場合に資金提供の当事者や条件を開示するよう裁判所に求めるケースも増えてきている。英国では開示が必要だが、米国では裁判所が開示請求を認めないようである。訴訟ファンドには資金提供額の枠があり、想定の回収期間もあるため、早期に和解を求めることも多いと言われている。訴訟ファンドを自ら活用し、原告として訴訟や仲裁を提起するにしても、反対に、訴訟ファンドを活用する訴訟や仲裁での被告となるにしても、訴訟ファンドのビジネスのロジックを知ることは、日系企業にとって大切になるであろう。