活用メリット

企業にとって民事訴訟構造から発生する問題点

1)予測困難な、多額で長期にわたる訴訟費用支出
成功報酬ベースでの弁護士(弁護士事務所)での事件の受任が原則的に難しい企業による訴訟や仲裁の場合、弁護士報酬は時間制になるが、裁判や仲裁が長期化すると必然的に費用が高額になる。毎年、弁護士の時間給は上昇しており、米国の主要都市ではアソシエイトの数百ドルからパートナーになると1000ドルを超えてくる。有能な弁護士(弁護士事務所)ほど時間給は一般的に高くなる。弁護士事務所への報酬のほかにも、訴訟に伴う、証拠開示手続きでのe-discovery、expert witnessなど専門コンサルタント起用などの訴訟関連諸費用は想定以上に高額になる。また、訴訟相手側当事者の訴訟対応が変われば、当初の見積もりは意味をなさなくなる。

弁護士起用において弁護士と依頼人間のエージェンシー・コストの問題もある。エージェントである弁護士の利害は、必ずしも依頼人の経済的利益と一致するわけではなくそこに余計なコストが発生する可能性は否定できない。建前上は、弁護士は依頼人の利益を守るものであるが、現実には必ずしもそうとは限らない。Over lawyeringには注意しなければならない。このように訴訟費用管理=弁護士のコントロールは経験を積んでいても難しいものである。

更に、企業が、複数の訴訟を同時並行で抱えることになると、こうした頭の痛い問題が累積し企業法務部にとり訴訟費用管理は、極めて難しくなってくる。利益を生まず、費用を出し続ける法務部門は、多くの場合コストセンターとみなされている。 リーガルコストの削減は、企業法務部に対して経営陣から求められる最重要課題という企業法務責任者からのアンケート結果もある。

 

2)企業経営者に評価されない訴訟
長期の継続的なで高額な訴訟費用の支出は、企業からキャッシュフローを奪い、他の新しい事業機会を失わせる。企業会計上で、訴訟費用は、EBITAで営業利益を減少させる一方、勝訴して相手側から損害賠償金が支払われても、それはノン・リカレントアッセット、偶発的資産になりEBITAの費用支出と結びつかない。もちろん、企業にとり法的に白黒をつけなければならない存立に関する訴訟であれば訴訟費用が問題にならないであろうが、必ずしもそうでない場合に経営陣を説得するのは容易ではない。

 

3)経済的格差による対等な戦いの困難
訴訟費用は自己調達からしか得られないため、長期にわたる訴訟継続をするには健全な財務内容であることが必要となる。有能な弁護士の弁護士費用は高額であり、弁護士起用においても経済力の格差がでて、訴訟の成否が左右されることに繋がる。
財務上余裕のある大手企業は長期戦、焦土作戦などで訴訟手続きの引き伸ばしを使うことで相手側に圧力をかけることもある。中小企業や財務内容に問題を抱える企業にとり大企業に対する訴訟や仲裁は厳しいものになることが多い。

 

4)Risk Aversion,リスク回避志向
経済的負担を長期継続しても敗訴すればすべてかけた費用は無駄になる。訴訟費用が敗訴者負担の裁判管轄地での訴訟や敗訴者負担の合意のある仲裁であれば、敗訴の場合のコストは更に増加してしまう。訴訟や仲裁手続きの見通しも総コストの想定も容易ではない。従い、経営陣への訴訟や仲裁に踏み切る説明も難しく、勝てるチャンスがあってもあえて訴訟や仲裁に踏み切ることを躊躇する傾向になる。一般的に人はリスク回避志向、Risk Aversion、が強いと言われているのだが訴訟や仲裁提起の判断でもその傾向が出る。

 

5)企業組織の隠れたコスト増加
訴訟を避けることにより金銭化されない法的請求権は、企業の組織内で潜在化している資産=隠れたコストになる。訴訟や仲裁で勝てるチャンスのある第三者に対する法的請求権を放置することで活用されない資産が、企業組織に蓄積していく。長期的に見ればこうした不稼働資産が増え、隠れたコストになっていき、資産効率は下がり、企業価値にも悪影響を及ぼしかねない。
 

訴訟ファンドによる企業にとっての問題解決と活用のメリット

1)コーポレートファイナンスとしてのメリット
訴訟ファンドを活用することで企業組織内に潜在している資産価値のある法的請求権をノンリコース条件で実現=金銭化することができる。訴訟ファンドからの資金供与で、訴訟費用発生時の支払い義務もないし、敗訴してもノンリコース条件であるから訴訟ファンドに対して返済義務もない。継続的な訴訟費用の計上も不要で、借入債務にもならないため、企業会計上も訴訟ファンドからの資金供与は好ましい。訴訟や仲裁で得られる解決金の相当割合を訴訟ファンドに支払ってでも、訴訟ファンド活用のメリットが大きいこともあり得るのであり、新しい形のコーポレートファイナンスとして訴訟ファンドを認識すべきだという意見が実務家の間で強くなってきている。訴訟ファンドにより、法務部はコストセンターでなく利益を生む部門に変わることが可能になるとも言われている。
コーポレートファイナンスとしての企業にとってのメリットについては以下の通りである。

 

2)敗訴の経済的リスクからの解放
訴訟ファンドの利用により、敗訴の場合、支払った訴訟費用だけでなく、敗訴者負担の場合には相手側から請求される訴訟・仲裁費用の負担からも免れることができる。このため企業法務部にとり、より積極的な訴訟戦略を立てることも可能になってくる。

 

3)経済的に対等な戦い
訴訟期間が長期になっても継続的な費用支出の負担や圧力から免れることができ、訴訟戦略に余裕ができる。相手の焦土作戦に対抗できる。更に、訴訟ファンドからの資金でより有能な弁護士を起用することが可能になる。

 

4)第三者評価の機会、Risk Aversion解消
訴訟ファンドは、原告当事者に資金提供をするに際し、当該訴訟・仲裁につき徹底的なデューデリジェンスを行う。勝訴の可能性が低ければ、訴訟ファンドは資金供与を行うことはない。往々に当事者は、訴訟・仲裁の提起にあたり思い込みや感情にとらわれ、自らの法的立場について客観的な評価ができないことがあるが、訴訟ファンドは、当事者と反対の立場からも客観的に案件を検討する。こすなわち、訴訟ファンドを通じて得られる第三者評価の機会である。もし、訴訟ファンドが資金供与を辞退するようであれば、訴訟提起はかなりリスクの高いものと判断せざるを得ない。訴訟ファンドがつくことで、経営陣に対して当該訴訟・仲裁提起の合理性を説明することが可能となる。

 

5)隠れたコスト解消による資産の効率的運用
これまで、訴訟・仲裁をためらってきた法的請求権が訴訟ファンドの関与で実現化してくることになる。しかも会計上の負担もなく、敗訴リスクもなく、隠れたコスト=潜在化している資産が、訴訟ファンドの関与で金銭化、資産化される。

 

6)弁護士のエージェンシー・コストの低減
訴訟ファンドは訴訟・仲裁実務に精通した弁護士を中心として運営される。資金供与額の決定にあたっては、当該訴訟・仲裁でどのくらいの費用がかかるか、専門的な第三者の目で精査される。ここで弁護士側の費用見積もりに対してチェック機能が働くことになる。また、訴訟ファンドとして資金供与額や期間に枠があるため弁護士の訴訟遂行業務についても間接的なコントロールが及ぶ効果が期待される。つまり、第三者である訴訟ファンドの関与は、依頼人・弁護士間で発生する弁護士のエージェンシー・コストを低減化することが期待できる。

 

7)ケース・スタディ
ここで、具体的な事例を通じて、いかに訴訟ファンドがそのファンディングによって価値を創出するのか、それが企業(主に上場企業を想定)にとって、どのような経済的な意味を持つのかを事例を通じて見てみたい。

 1.前提
 (ア)訴訟当事者である企業Xは、EBITDAが8倍(通常の米国上場企業の水準と同等)であると仮定する。
 (イ)Xが原告として関与している、ある訴訟に関して、以下のような条件が存在する。なお、これらは全部見込みである。
    ① 年間の訴訟費用(弁護士費用等) 5MUSD
    ② 勝訴の場合の収入        30MUSD
    ③ 勝訴の確率           75%
 (ウ)訴訟ファンドがファンディングする条件は以下のとおり
    ① 年間の訴訟費用は全てファンドが負担
    ② 勝訴した場合、それまでにかかった訴訟費用の3倍か、勝訴金額の3分の1のいずれか多い方を成功報酬として受け取る。
    ③ 敗訴しても、Xに対して遡求して請求することはない。

 2.企業価値と訴訟費用(図1)
 (ア)訴訟費用は、支払金額は5MUSDに過ぎないが、そのために企業価値は大きく毀損する。
 (イ)何故ならば、企業価値≒事業価値は、将来に渡るフリーキャッシュフローの現在価値であり、フリーキャッシュフローを直接減少させる訴訟費用というのは、支出金額以上のインパクトを持つからである。
 (ウ)EBITDAをほぼフリーキャッシュフローとみなすと、まさにその価値毀損はEBITDA倍率でキャッシュフローをかけたものとなる。
 (エ)一方、ファンドにおいて、それは価値毀損ではなく、必要支出に過ぎないために、この双方の価値評価の違いそのものが、訴訟ファンドの価値創出そのものとなるのである。
図1 事業価値とフリーキャッシュフロー

 3.ファンド利用による事業価値創出の計算(図2)
 (ア)上記1、2を前提として、ファンド利用の場合とファンドを利用しない場合とを比べ、それを確率的に計算してそれぞれの場合のTotal Valueを計算したものが、下図2である。
 (イ)見ていただくとお分かりの通り、ファンドを利用しない場合、上述の前提に立てば、そもそもこの訴訟に取り組みこと自体には価値がないために取り組むべきではない、というのがコーポレートファイナンス上の結論である。
 (ウ)しかし、ファンドを利用することによって、Total Valueはマイナスからプラスに転じ、コーポレートファイナンス的にも取り組むに値する案件となる。
図2 訴訟ファンドを利用した場合としない場合のトータルバリュー

 

訴訟ファンドによる法律事務所にとっての問題解決と活用のメリット

訴訟ファンドの普及は、法律事務所にもメリットを与えると予想されている。

1)訴訟の顕在化による案件受任機会増加
訴訟ファンドの活用により、これまで費用負担や敗訴の可能性の心配で訴えられなかった案件が、顕在化する。当然、弁護士の受任機会が増加することが見込まれる。訴訟ファンドの活用の歴史は浅く、まだ、社会学的な研究は進んでいないが、訴訟ファンドの活用が先行している豪州での調査では、訴訟案件数がそれ以前と比べ増加していること、一方で、その増加率と比べ、訴え棄却の数は増えていないということが報告されている。訴訟ファンドの普及は必ずしも濫訴に結びつかないとの解釈もできる。(※8)
※8 15 U. Pa. J. Bus. L 1075

 

2)成功報酬の経済的負担からの解放による案件受任機会増加
成功報酬ベースでの事件受任を増やすことには、法律事務所にとり経済的限界がある。これまで成功報酬で案件を受任してきた法律事務所にとり、訴訟ファンドの介入は、定期的で確実な報酬の受け取りを可能にし、事務所の経済的負担を軽減し、これにより新しい案件の受任を可能にする。

 

3)訴訟ファンドからの評価
訴訟ファンドは、デューデリジェンスにおいて当該訴訟や仲裁でどのような弁護士が起用されるのかについて審査する。担当弁護士の能力が勝訴の確率に影響するからである。訴訟ファンドに認められる弁護士は一定以上の評価を受けることになる。この意味で訴訟ファンドと弁護士は直接の委任関係はないものの事実上の協力関係をもつことにもなる。現実にも訴訟ファンドと弁護士との協働関係(事件の紹介など)はよく見られるようである。もっとも、こうした訴訟ファンドと弁護士との関係は法曹倫理の観点から厳しくチェックされなければならない。

 

4)新しいフィーアレンジメントの提案
弁護士(弁護士事務所)にとり訴訟ファンドは、クライアントに対して新しいフィーアレンジの提案になる。成功報酬ベースや時間給ベースに加えて訴訟ファンド紹介によりポテンシャルなクライアントに対して新しいフィーアレンジメントの提案ができ、案件受任の機会も増えることが期待される。