活用上の注意点

訴訟ファンド活用上の注意点

急速に活用が進む一方、法的な疑念と社会的非難があるのが現状

倫理的観点からの危惧:非法曹の訴訟関与による法曹倫理上の問題 秘密保持義務、秘匿特権、利益相反、非弁護士との共同事業訴訟ファンドが社会的認知を受けるようになってきたとはいえ、訴訟ファンドに対する批判も根強いものがある。まず、倫理的な観点からの非難である。訴訟や仲裁に当事者及び弁護士以外の第三者が利益を求め関与するという訴訟ファンドの考えに対しては、社会や法曹界から批判が起こることは容易に想像できる。
訴訟ファンドの場合、訴訟が当事者の判断で提起されていることから、意図的に経済的な利益を得るためのみに起こす訴訟と認定されるケースはほとんどないといってよい。

しかし、これまで存在しなかった訴訟当事者たる依頼人と弁護士(法曹)との間に非法曹である第三者が関与することで新しい問題が発生する。American Bar Associationは、訴訟ファンドの社会的影響を勘案して2012年に訴訟ファンドに関与する弁護士の立場から法曹倫理上発生する問題につきワーキンググループを作り報告書を発表した。(※10)

様々な問題が指摘されているが、訴訟ファンドが案件を資金供与の対象とするかの判断をするためデューデリジェンスが行われ、訴訟当事者からも代理人弁護士からも当該案件についての詳細な情報を求めることになる。また、訴訟や仲裁が始まってからも訴訟遂行の状況や和解など重要な時点での判断に関係者から情報を求めることになる。ここから秘密保持義務や秘匿特権保護の問題が生じる。また、訴訟ファンドと代理人弁護士との間の関係も必然的に生じる。ここから本来の依頼人と弁護士間の関係に影響が及ぶ可能性もある。いわゆる利益相反の危惧である。現実的には、訴訟ファンドと弁護士の間で案件の紹介などビジネス関係も発生してきており、非法曹である訴訟ファンドが弁護士との間でフィースプリットをしていることになるのではないかという指摘もある。

※10 AMERICAN BAR ASSOCIATION COMMISSION ON ETHICS 20/20 INFORMATIONAL REPORT TO THE HOUSE OF DELEGATES White Paper on Alternative Litigation Finance (Feb.
http://www.americanbar.org/content/dam/aba/administrative/ethics_2020/20111212_ethics_20_20_alf_white_paper_final_hod_informational_report.authcheckdam.pdf

 

その他の問題点として挙げられるのは、ALFは利息制限法 (Usury Act)に抵触するのではないかということである。これに対して、ALFはノンリコース条件であり返済義務を資金受領者に負わせておらず、融資とは本質的に異なる故、利息制限法の適用を受けないとの意見がある。一方、特に、消費者を対象とするALFにおいては、利息制限法の適用を免れないのではないかという意見もある。米国においては2015年ペンシルバニア州連邦地方裁判所がALFへの利息制限法の適用を否定した。(※11)

※11 Obermayer Rebmann Maxwell & Hippel LLP v. John H.C. West、III, and Restorative Programming, Inc. and Fast Trak Investment Company LLC, and RJC Funding, LLC, Civil Action No. 15-18 US District Court.For the Western District of Pennsylvania(December 30, 2015)

 

乱訴の危惧

米国では、一部弁護士による特許権訴訟制度のゆがみを利用したパテントトロールが社会問題化しており、また、経済的利益を得るために大規模不法行為訴訟などで集団訴訟制度が原告弁護士に不当に利用されて社会的コストが増加しているとの批判が経済界からある。同様に、訴訟ファンドにより訴訟機会を求め投機的な資金が流入し、濫訴が増え、社会的にも無用なコストが発生し、また、訴訟制度にもコスト増など負担が増大するという批判である。米国商工会議所がthe Institute for Legal Reformを通じて反対活動している。(※12)

※12 “Selling Lawsuit, Buying Trouble, Third –Party Litigation Funding in the United States”(2009)
http://www.instituteforlegalreform.com/

 

法規制不存在と業界団体の未熟に対する危惧

訴訟ファンドが、実需を背景に急速に浸透してきたため、各国で法整備が進んでいないことが問題視されている。英国では、the Association of Litigation Funders(※13)と呼ばれる訴訟ファンドの業界団体も存在しているが、必ずしもすべてのファンドが加入しているわけではない。この業界団体は行動基準として2014 Code of Conduct for Litigation Fundersを発行している。(※14) 特に、訴訟ファンドの財務内容の健全性の保証、訴訟ファンドによる不当な訴訟の防止、訴訟ファンド側からの契約途中解除などが主要関心事である。(※15)

一方、訴訟ファンドの浸透が遅れている米国ではまだ法規制も業界団体も存在していない状態であるが、困窮している交通事故などの不法行為による個人被害者に生活費や訴訟資金を貸し付け、訴訟から得られる賠償金から回収するような、いわゆる企業取引にかかわる訴訟ファンドとは次元の異なる問題も発生している。企業取引にかかわる訴訟ファンドは関係者が個人とは異なるものの訴訟ファンドが今後社会により浸透していけば、ハードローかソフトローかは別として米国でも早晩、訴訟ファンドに対する規制は避けられなくなるであろう。

※13 http://associationoflitigationfunders.com/
※14 http://associationoflitigationfunders.com/code-of-conduct/
※15 Cambridge Law Journal, 73 [2014], pp 570-597