海外の状況

海外における訴訟ファンド活発化の背景

英国、豪州及び米国での訴訟ファンド浸透

訴訟ファンドは、英国で活用が始まった。英国のコモンローでは、訴訟当事者以外の第三者が、訴訟に干渉することをMaintenanceといい違法とされていた、また、Maintenanceの一形態として、訴訟当事者外の第三者が法的請求権のある当事者に替わり訴訟を起こしたり干渉したりして当該訴訟から得られる成果を受け取ることは、Champertyと呼ばれ、違法行為として禁じられていた。(※2) 英国中世では、不動産の不正取得を目的として他人の名前を借り詐欺的な訴訟を起こす富裕貴族が横行し、それに関わり賄賂や恐喝などにより訴訟制度が腐敗したためと言われている。このコモンロー上のMaintenance とChamerty は、その後、英米法系の国に継受された。しかし、英国では1967年に法改正 (Criminal Law Act 1967)でMaintenance とChamperty は廃止された。現在、Maintenance とChampertyの廃止を明らかにする国(例えば、豪州、ドイツやスペイン。アジアではシンガポールが初めて)や州(米国の過半数以上の州)は増えてきており訴訟ファンドに対する障害が消えつつある。(※3)

※2  Am Jur 2d Champerty, Maintenance, and Barratry  §1
※3  American Bar Association Commission on Ethics 20/20 Information Report to the House of Delegates, page 2, 11~13

 

このような訴訟ファンドが、なぜ英国や豪州を中心として急速に広がったか?

英国や豪州では、訴訟費用の敗訴者負担が通例であったため、個人も企業も訴訟を起こすには大きな負担があった。英国では1999年までは英国では認められておらず、現在でも弁護士標準報酬の100%までの制限があった。2013年以降、ようやく英国では弁護士が成功報酬を受け取れるようになったが、通常、成功報酬での受任は個人による人的損害賠償請求に利用されているにとどまる。また、豪州においては、集団訴訟の原告代表者以外は敗訴者負担から免除される一方、代表者が責任を負わなければならないためハードルが高い。

訴訟ファンドは、こうした訴訟費用敗訴者負担による司法へのアクセス障害を克服するものであった。従い、英国や豪州での訴訟ファンドの活用の場は、個人が原告となる不法行為や証券取引詐欺などから拡大しているのである。一方、米国では、英国や豪州と異なり歴史的に弁護士(弁護士事務所)が成功報酬ベースで訴訟を行う慣行が確立してきた。特に、大規模な製造物責任にかかわる不法行為などの個人被害者が係る集団訴訟では積極的に弁護士(弁護士事務所)が成功報酬ベースで事件を受任する。従い、米国での訴訟ファンドの活用は、成功報酬ベースで働く弁護士(弁護士事務所)と競合するため、その需要が活発でなく、英国や豪州と比べ社会への浸透が遅れていた。しかし、企業間の訴訟においては、通常成功報酬ベースで働く弁護士(弁護士事務所)は稀であり、時間給での報酬支払となる。米国での訴訟ファンドの活用は、このため成功報酬ベースでの弁護士起用が難しく、時間給ベースでの弁護士起用をする企業間の事件、特許権侵害訴訟、契約紛争、独禁法違反などを中心として進んできている。

 

訴訟ファンドの活発化の背景について

TPLF/ALF自体その考え方は、1990年代からも異なる形で存在していたが、なぜ、この数年で英米系の国で訴訟ファンドが社会に浸透してきたのか?その背景には以下のものが考えられるであろう。

1)19~20世紀に完成した近代国家における民事訴訟制度や訴訟慣行が、社会構造の変化により、特に経済活動の主要な当事者たる企業にとり合理性を欠くようになってきている。それにもかかわらず法制度改革のスピードが遅く、一部の企業や弁護士が、実需を満たすため新しい創造的アプローチを試みる環境が生まれてきていること。

2)英米系の判例法の国では、情報技術の進化により、民事訴訟に関して豊富で客観的なデータの蓄積が進んでおり、訴訟や仲裁の結果について第三者(訴訟を投資対象とみる当事者)に合理的な説明や予測ができるようになり、訴訟とファイナンスが結合できるようになってきたこと。

3)ヘッジファンドやプライベートエクイティなど従来の金融機関とは異なるリスク嗜好をもつ資金提供当事者が市場に現れ始めたこと。

 

ケーススタディ 最近の海外での事例から

Crystallexの事例

カナダの民事再生手続き中の鉱山会社Crystallexが、ベネズエラ政府を相手に金鉱山鉱区権の不当な没収につき争ったthe International Centre for Settlement of Investment Disputes(ICSID)での国際仲裁に対し訴訟ファンドが、CrystallexにDIP Financeとして$36illionを資金供与した。2016年にこの仲裁手続きでベネスエラ政府に対してカナダの鉱山会社に対して総額$1.38billionの賠償支払いをすることが認められた。訴訟ファンドにはその回収金額の35%を受け取ることができる契約であり、訴訟ファンドの成功事例として取り上げられている。(※4)

※4 Crystallex (Re), 2012 ONCA 404 (Can LII)  ,Re Crystallex International Corporation, 2012 ONSC 2125 (Can LII)

大手クレジットカード会社のMaster Cardに対して違法な手数料徴収によるEU独禁法違反を理由として英国の被害者が、Consumer right Act 2016集団に基づき、集団訴訟により約2.5兆円の損害賠償請求を起こした。その請求金額の大きさに加え、英国での集団訴訟であるにもかかわらず、米国の訴訟ファンドGerchen Keller(その後Burford Capitalに買収された)が、その訴訟費用を提供し、米国大手法律事務所Quinn Emanuelが原告を代理したことで注目を集めた。訴訟ファンドがクロスボーダーで活動していることも注目を集めた理由のひとつであった。
※5 https://www.ft.com/content/6f0fdb5c-42ce-11e6-9b66-0712b3873ae1

 

Gawker Mediaの事例

いわゆる訴訟ファンドとは異なるが、訴訟当事者以外の第三者が訴訟費用を提供したTPLFとして米国で社会的な関心を集めたのが、プロレスラーHulk Hoganがネット情報提供会社のGawker Mediaに対して起こしたプライバシー侵害による損害賠償請求事件である。Hulk Hoganには高額な訴訟費用を負担することが困難であったが、Pay Palの創業者でシリコンバレーのベンチャーキャピタリストとして著名なPeter Thielが訴訟費用を提供した。

Peter Thielは以前、Gawker Mediaによりプライバシー侵害を受けたことがあり、それが$10 millionにも上る訴訟費用の負担を申し出る理由となった。この資金提供の事実は訴訟継続中には明らかにされなかった。その裁判で約$140millionの支払いをGawker Media命じる陪審員の評決が出たため、Gawker MediaはChapter 11に基づく会社更生手続きを申請し、事業も身売りされることとなった。また、経営者も自己破産に追い込まれた。Peter Thielの資金提供は復讐の動機によるもので、司法制度を歪めるものであるとの批判も出ている。一方、Peter Thielの資金供与により不法なプライバシー侵害を繰り返したGawker Mediaに対する社会正義が実現されたとの肯定論もある。(※6)
※6 “Peter Thiel, Tech Billionaire, Reveals Secret War With Gawker” The New York Times May 25, 2016