海外トピックス

コロナウイルス感染症拡大下の国際的な「訴訟ファンド」活発化

世界的なコロナウイルス感染症拡大により、リーマンショック以上の経済的活動の停滞が確実視され、トランプ政権下での株価上昇分が吹き飛んでいる。こうした中、いわゆる市場リスクから遮断された「訴訟ファンド」に対する投資家の見方が明らかに変化してきている。

複数訴訟でポートフォリオを組成した「訴訟ファンド」は、平均して年十数パーセントのリターンを生んでおり、今後ますます不透明感を増している市場で唯一の安定的投資対象となりつつある。もちろん、コロナウイルス感染症拡大により裁判所機能も主要各国で機能不全に陥っており、「訴訟ファンド」が投資対象としている事件の裁判の手続きが遅れ始めているのは事実である。しかし、現実的には「訴訟ファンド」の投資対象の訴訟は、終局判決まで至ることはなく、ほとんどが早期和解で決着するので、コロナウイルス感染症拡大による訴訟手続きの遅延は「訴訟ファンド」には大きな影響を与えない。むしろ経済的不透明感、企業業績の悪化によりむしろ当事者間の和解はより容易になってくるであろう。このことで「訴訟ファンド」は投下資金の早期回収が可能になり、リターンも改善される。

更に、コロナウイルス感染症拡大により、米国や英国の大手法律事務所はパートナーへの利益配当の延期や縮小、アソシエイト弁護士の昇給停止あるいは給与カット、新人弁護士の採用計画見直しなどを始めている。これはリーマンショック時と同じである。成功報酬ベースの訴訟案件の弁護士報酬の早期回収は、経済状況の見通しの立ちにくくなった法律事務所にとっては喫緊の課題である。成功報酬が見込まれると言っても回収までに時間がかかるし、固定経費はかさんでくる。訴訟案件でなくとも将来の受け取り弁護士報酬を早期に現金化し事務所の運転資金に使う選択肢も魅力がある。そこで「訴訟ファンド」が、こうした法律事務所の運転資金調達の有力なリソースになってきている。

また、訴訟当事者である企業にとってもコロナウイルス感染症拡大により業績に影響が出始め、キャッシュフローにも陰りが見え始めている。訴訟や仲裁の継続は、業績が良好の場合には負担にもならないが、一旦、全世界的な経済恐慌状態になれば、企業は早急にこうした見通しのつきにくい負担を軽くしなければならない。これまで好景気で予算が潤沢だった企業法務部門は一転してコストセンター化して経営陣から予算の緊縮を求められるであろう。「訴訟ファンド」は、こうした原告企業に対して、訴訟手続きの段階に応じてノンリコース条件で資金提供をすることができる。現在のような金融市場で、先行きの見通しが立てられない訴訟や仲裁の当事者たる企業にとりオフバランスで訴訟資金が調達でき、且つ、訴訟費用で流失し続けているキャッシュフローの歯止めをかけることができるのは「訴訟ファンド」を置いて他はない。もちろん、その上に敗訴リスクも「訴訟ファンド」が負担してくれるのである。また、一般に「訴訟ファンド」は訴訟や仲裁開始の時に資金提供をするものと考えられているが、「訴訟ファンド」は、訴訟や仲裁のいかなる段階においても資金提供を行える。企業は、継続中の訴訟や仲裁の請求権を現金化することもできるのである。

コロナウイルス感染症拡大により世界中で最も効率的だったグローバルサプライチェーンがズタズタにされるとか、人の移動や経済活動の事由が制限されるとか、様々な場面で既存システムが機能不全に陥り、人々は従来の思考方法や習慣の変化を強いられ始めている。法律業界も例外ではない。既存勢力から鬼っ子として敬遠されてきた「訴訟ファンド」であるが、コロナウイルス感染症拡大により米国やEUの法律業界ではその有用性に注目が集まっている。

隼あすか法律事務所
外国法事務弁護士
鈴木修一