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これまで以上に資金が集まる訴訟ファンド。法律事務所に訴訟ファンドの利用を納得させられるか?

The AMERICAN LAWYERS の2018年6月号にて「訴訟ファンド」に関する特集が掲載された。米国の法律領域専門の業界誌の巻頭で取り上げられるほど、訴訟ファンドへの今後の成長性への期待もさることながら、法的解釈や規制に関する議論にも注目が高まっている。今回は、特集記事 “Litigation Funders are infused with more cash than ever. But can convince law firm to use it? “の概要を紹介する。

 

ある産業において2つの強力なプレイヤーが統合する時は、典型的にその産業の成熟度が高まりつつあるサインである。しかし、訴訟ファンドにおいてはそのルールはあてはまらないのかもしれない。2016年12月に2つの強力なプレイヤーの1つであったBurford Capitalがもう1つのプレイヤーGerchen Keller Capital(GKC)の買収をしたことが、企業間の訴訟提供するいわゆる「訴訟ファンド」ビジネスの着火点となった。

 

この買収前にはシカゴに拠点をおくGKCは13億ドルをファンドレイズし、世界で最大のファンド規模を有していたが、1年半のうちに17.5億ドルを新しい訴訟に対して資金提供した。これは、Burford Capitalによる買収前の同期間の3倍の金額に上る。他の8つの訴訟ファンドや保険会社もGKC の買収以降1億ドルをファンドレイズした。

 

訴訟ファンドは間違いなく、企業間訴訟における訴訟資金の調達手段として認識されるようになり、その成長性を多くの人々が信じるようになってきた。新たに組成された訴訟ファンドは、米国内の大規模法律事務所を潜在的な資金提供者として認識していることを表明していた。

 

しかし、新興の訴訟ファンドが米国で著名な法律事務所と資金提供の契約をし、訴訟資金の提供に一定以上の割合で貢献するにはまだまだ長い道のりがある。一定以上の存在感を獲得するためには、2つの大きな課題を位する必要があると言える。それは、第一に「資本コストを下げること」と第二に「タイムリーかつ継続性のある方法論でよりスムーズに訴訟資金提供契約を締結するスキームを整えること」である。

 

長期的な視点にたてば、誰もが合意するように資本価値があることが期待されるが、訴訟領域でのファイナンスは、別の方法論を成熟させつつあると言える。資金の価値は相対的に下がり、投資家の期待リターンは低下する途上で、訴訟リスクをマネジメントする方法が根本的に変わっていくだろう。

 

また、訴訟ファンドは別の需要サイドの変化にも直面することになる。訴訟ファンドがより多くのリターンを獲得し損ねる一方で、大規模法律事務所は、より官僚的に硬直化する傾向になる。訴訟ファンドとの契約締結の目前となって、法律事務所は自分たちのリーダーシップを発揮しようとする。訴訟ファンドが成長すればするほど、訴訟ファンドファームは、より防衛的な対応にさらされるということだ。

 

資本コスト

米国で訴訟ファンドが誕生してから少なくとも10年が経過しているが、既に大きな変化を経験している。Burfordは2009年に初めての訴訟ファンドとしての活動を開始し、この年に3件の訴訟で資金提供を実行している。最初の案件では、700万ドルを資金提供したが、驚くほどの成果をもたらした。Burfordは、提供資金の約4倍にあたる2,810万ドルのリターンを得たのである。2つ目の案件では、200万ドルでの投資で200万ドルを回収し、3つ目の案件では250万ドルの損失を出すこととなった。

 

2017年のBurfordの投資額は、リターンは“All or Nothing”を前提にしているにも関わらず、平均投資規模は、2,400万ドルとこの5年間で300万ドルから大幅に増加している。「バイナリーリスク」(”all or nothing”ということで、そのように呼ぶ)であることが訴訟ファンドを他の投資手段とは別の魅力になり、投資家の期待を集めていると言える。

 

いわゆる「バイナリーリスク」を軽減するために、Burfordをはじめとする訴訟ファンドは、より多くの訴訟をひとつにまとめる機会を作ろうとしている。いわゆる「ポートフォリオファイナンス」を訴訟ファンドは目指しているのだ。Burfordは、1億ドル以上を企業間の訴訟に、5,000万ドル以上を仲裁案件に投資している。需要と供給のルールに則れば、訴訟ファンドは資本コストを下げると考えられるかもしれないが、今のところはそうなっていない。

 

AM LAW200をターゲットに

訴訟ファンドは、Am Law 200(米国の上位200の大規模法律事務所を指す)との訴訟資金契約をますます増やしていこうとしている。2018年3月にBurfordは40の異なるファームに対して訴訟資金の提供をしていると発表している。グローバルな大規模法律事務所との契約は、877の実行中の投資案件のうち14%を占めるに至っている。グローバルな大規模法律事務所による時間制による報酬請求は、継続的にファイナンスのプレッシャーを受けており、財務的な破綻は時間の問題だという見方もある。こうした状況で、法律事務所は、リーガルワークをマネジメントし、報酬を受ける方法をよりコントロール可能な状態に集約化しようとしている。

 

また、訴訟ファンドが受け入れられる別の筋みちとしては、より法律事務所がクライアント志向な存在になることだという考え方もある。クライアントは、必ずしもタイムチャージのリーガルサービスを法律事務所に期待しているわけではない。クライアントが、より良いリーガルサービスを受けるための価値と価格に自覚的になればなるほど、法律事務所の意識も変わり、結果的に訴訟ファンドを活用することで法律事務所も財務的な安定を手にいれるのではないだろうか。

 

成長の痛み

訴訟ファンドは成長を続けているように見えるかもしれないが、規模を維持する難しさが存在している。訴訟ファンドは、その訴訟資金契約に関する情報を守ろうとし、どの法律事務所が投資に見合う訴訟を担当しているのかを開示しようとはしない。法律事務所は、純粋にビジネスの観点から訴訟ファンドに対しては命令的なポジションを有することになる。そのような観点から市場の公平性を保つのが非常に難しいのである。

 

また、法律事務所の資金ニーズがあるとしても、明日5億ドルが必要なわけではない。法律事務所は訴訟ファンドを受け入れつつあるものの、そのスピードはまだまだ遅く、Burfordの規模の訴訟ファンドが10以上参入する余地があるかといえば、そこまでの規模には至っていない。

 

また、なぜ投資から必ずしも高収益のリターンを得られないかについて、Burfordは、市場のリスクの高さと投資家の期待値が高すぎることを理由として挙げている。しかし、この理由は、訴訟の取り下げにあるという指摘もある。敗訴のリスクも踏まえた上でリターンを想定しなければならない中で、訴訟ファンドの収益は、投資家に常に魅力的であることをアピールせざるを得ない株式投資のリターンと似た傾向にもなってきている。

 

また、もう一つの制約条件は、訴訟ファンドの市場は、クローズドなマーケットであることだ。現在の訴訟ファンド市場自体が、高値が付きすぎ、硬直化しテンプレート主導で進んでいるために、狭い市場で過剰な競争が発生していると言える。

 

BIG LAWにフィットするのか?

さらに別の観点から訴訟ファンドの需要拡大の可能性への懸念がある。グローバルな大規模法律事務所のビジネスに訴訟ファンドのスキーム自体がそもそも適合するのか?という点である。訴訟ファンドは、一般的に企業間訴訟の原告側への投資に活用されているが、大規模法律事務所の有している案件の多くは、原告側の代理ではなく、被告側の代理なのである。 

 

進化する未来

中期的には訴訟ファンド市場において様々な変化が生じるにせよ、訴訟リスクの算出方法がより正確になされるようになれば、訴訟ファンドの価格は下がっていくとみられている。訴訟ファンドのスタートアップの中で、Legalistと呼ばれるデータ分析に基づく訴訟ファンドもあったが、多くの人はそのアプローチには限界があるとみている。なぜならばグローバルな大規模法律事務所のパートナーも訴訟リスクをデータから分析しているわけではないからだ。

 

法律事務所は天才になる必要は必ずしもなく、本来の役割はその訴訟において適正な賠償額を明確にすることにある。この点において訴訟ファンドと法律事務所は必ずしもその指向するところが一致しないのだ。ある見方では、訴訟リスクに基づかず、請求権を証券化することが可能だとも言われている。しかし、そこからリターンを得るためには膨大な投資額が必要になるという見立ての方が現実的だと言える。

 

The AMERICAN LAWYERS July 2018
By Roy Storm and Ben Hancock